日系医療機器メーカーがインド展開を加速|市場成長と「現地化」の最新動向

インド医療機器市場と日本企業の現地化動向

インドの医療機器市場で、日本企業の動きが活発になっています。背景にあるのは、医療需要の拡大だけではありません。インド政府が国内生産を後押しする一方、病院や医療機関では、導入後の保守、医療従事者への研修、安定した部品供給まで含めた提案が重視されるようになっています。

そのため、従来のように日本で開発・製造した機器を輸出するだけでは、インド市場の幅広い需要を取り込むことが難しくなっています。製品の品質を守りながら、研究開発、生産、販売、修理・保守などの機能を現地に近づける「現地化」が、事業拡大の重要な条件になりつつあります。

本記事では、インドの医療機器市場の現状と、島津製作所・オリンパスの取り組みを手掛かりに、日本の医療機器メーカーが押さえておきたいポイントを分かりやすく整理します。

インドの医療機器市場が注目される背景

市場拡大とともに国内の供給基盤も整備

インド政府広報局が2026年8月に公表した情報によると、インドの医療機器分野は現在約140億米ドル規模で、今後10年で300億〜500億米ドルへ成長する可能性があるとされています。人口規模に加え、中間所得層の拡大、生活習慣病・慢性疾患への対応、高度医療への需要などが市場の拡大を支えています。

また、インド政府は医療機器を国内で生産する企業への支援や、医療機器パークの整備を進めています。2026年3月時点では、インド国内の医療機器メーカーとして4,108社が許可を受けていると報告されました。かつて輸入依存度が非常に高かった市場で、国内生産の基盤を広げようとする動きが続いています。

MRI、CT、超音波診断装置、心臓弁、ステントなど、これまで輸入への依存が大きかった分野でも、政策支援を通じた国内生産が進められています。日本企業にとっては、完成品を輸出する市場としてだけではなく、生産・開発・サービスを組み合わせる事業拠点としてインドを捉える必要があります。

参考:インド政府広報局「India Medical Device 2026」インド政府広報局「Medical Device Manufacturing in India」

成長市場である一方、輸入依存と価格競争も続く

インドの医療機器市場には大きな成長余地がありますが、参入すれば自動的に販売が伸びるわけではありません。2024年度の医療機器輸入額は輸出額を大きく上回っており、海外製品への需要がある一方で、輸入品は輸送費、関税、為替変動、在庫費用などの影響を受けます。

大手病院や高価格帯の医療機関には日本製品の精度や信頼性が評価されても、地方都市や中規模医療機関まで販売を広げる際には、価格、納期、操作性、修理対応などが障壁になる場合があります。中国、欧米、インドのメーカーとの競争もあり、「高品質な日本製」という説明だけで優位性を維持することは簡単ではありません。

重要なのは、市場の成長率だけを見て判断せず、対象とする診療分野、病院規模、地域、購買予算、意思決定者を明確にすることです。どの顧客が、どの課題を解決するために、いくらなら導入できるのかを現地調査で確認する必要があります。

日本企業のインド展開に見られる変化

島津製作所は生産・販売体制の強化へ

島津製作所は2025年1月、インド南部カルナータカ州に新たな製造会社を設立し、2027年春の稼働を目指すと発表しました。新工場では、まず分析計測機器の生産を開始し、将来は医用機器や産業機械も生産候補として検討するとしています。

同社は同時に、インド国内の販売子会社を統合し、販売・サービス体制を強化する方針も示しました。これは、インドを単なる輸出先ではなく、顧客に近い場所で生産、販売、サービスを行う戦略拠点として位置づける動きといえます。

なお、新工場で医用機器の生産がすでに決定したという意味ではありません。公式発表では将来の候補とされており、現在の計画と将来構想を分けて理解することが大切です。

参考:島津製作所「インドに製造会社を設立」

オリンパスは研究開発とアフターサービスを拡充

オリンパスは2024年、インドのハイデラバードに研究開発拠点を設ける計画を発表しました。現地の技術人材を活用し、グローバルな研究開発体制の強化につなげる取り組みです。

さらに2025年には、北部グルグラムに外科事業向けの修理施設を追加し、インド国内のアフターサービス能力を強化しました。医療機器は導入時の性能だけでなく、故障時の修理速度、定期点検、消耗品や部品の供給が、医療機関の購買判断や継続利用に大きく影響します。

また、内視鏡の感染管理をデジタル化する仕組みについて、インドの医療機関で実現可能性を調査する取り組みも進めています。機器単体を販売するのではなく、安全な運用、教育、業務改善を含む解決策として提供しようとする動きが見て取れます。

参考:オリンパス「インドに研究開発拠点を設立」Olympus India「グルグラムに修理施設を開設」オリンパス「インドにおける内視鏡感染管理システムの実現可能性調査」

輸出中心から「現地化」へ移る理由

現地生産だけがローカライズではない

医療機器メーカーにとっての現地化は、工場を建設することだけではありません。顧客ニーズを把握する市場調査、インドの利用環境に合う製品設計、規制対応、販売チャネル、医療従事者への研修、保守・修理体制、部品在庫までを一体として考える必要があります。

たとえば、高温・多湿、ほこり、電力事情、設置スペース、使用頻度、操作者の習熟度など、日本とは異なる環境で利用される可能性があります。日本市場では標準的な機能でも、インドの特定顧客には過剰仕様となり、価格を押し上げている場合もあります。

反対に、機能を減らすだけでは安全性や信頼性を損なうおそれがあります。現地化とは廉価版をつくることではなく、自社が守るべき品質を明確にしたうえで、現地ニーズに合わせて機能、価格、運用方法を再設計することです。詳しくは、当社コラム「製品のインド化」戦略でも解説しています。

アフターサービスが競争力を左右する

医療機器では、停止時間が診療や病院経営に直結します。高性能な製品でも、故障時に技術者が到着するまで時間がかかる、交換部品を海外から取り寄せる必要がある、研修が十分でないといった状況では、導入の不安が残ります。

現地技術者の育成、認定サービスパートナーの配置、主要部品の在庫、遠隔支援、保守契約の標準化などは、販売後のコストではなく、顧客に選ばれるための価値です。修理拠点を増やすオリンパスの動きからも、サービス体制の重要性が分かります。

販売代理店を選ぶ際も、既存顧客数や営業地域だけでなく、医療機関への導入支援、技術者の能力、規制に関する知識、問い合わせへの対応速度を確認することが重要です。必要に応じて販売と保守を別の現地パートナーに分けるなど、役割に応じた体制を検討します。

日本の医療機器メーカーが検討すべき3つの論点

1.対象市場を細かく分け、顧客の意思決定を調べる

「インドの医療機器市場」という大きな単位だけでは、実行可能な参入戦略はつくれません。公立・私立、総合病院・専門病院・診療所、大都市・地方都市などでは、必要な機能、予算、調達方法、承認プロセスが異なります。

まず、どの診療分野と顧客層を狙うのかを決め、医師、臨床工学技士、購買担当者、病院経営者、販売代理店などへの現地調査を行います。重視する性能、現在の不満、購入予算、保守への期待、競合製品を選ぶ理由を具体的に確認します。

市場規模の推計だけでなく、実際の購買プロセスを理解することで、誰にどの価値を伝えるべきかが明確になります。インドのヘルスケア・メドテック市場全体の成長分野については、こちらのレポートもご参照ください。

2.製品・価格・供給・保守を一つの事業モデルとして設計する

製品仕様だけを現地向けに変えても、輸入コストや長い納期が残れば、販売価格を十分に下げられない場合があります。一方、現地調達率を急に高めると、品質のばらつきや供給の不安定さが生じる可能性もあります。

中核部品は輸入し、汎用部品や梱包材から現地調達を始める、一定数量までは輸入販売を続け、需要を確認してから現地組立へ移るなど、段階的な選択肢を比較することが現実的です。販売量、価格、関税、物流費、認証費用、人員、保守コストを含めて採算を試算します。

顧客に対しては初期価格だけでなく、耐用年数、消耗品、電力、保守、停止時間を含む総保有コストを示すことも重要です。日本企業の耐久性や精度を、顧客の経営メリットとして数値化できれば、単純な価格競争を避けやすくなります。

3.小さく検証し、段階的に投資を広げる

インド市場への期待が大きくても、最初から全国展開や大規模な現地生産を前提にする必要はありません。対象地域や病院層を絞り、販売代理店と限定的なテストマーケティングを行うことで、製品・価格・サービスの仮説を検証できます。

試験販売では、引き合い件数だけでなく、商談期間、失注理由、値引き後の利益、利用時の問い合わせ、修理対応、部品供給、代理店の活動量まで確認します。その結果を踏まえて、仕様変更、人員採用、サービス網、現地調達への投資を段階的に広げます。

インドでは州や都市によって医療インフラや商慣習が異なるため、一つの地域で成功した方法をそのまま全国へ当てはめるのは危険です。検証と修正を繰り返す仕組みが、リスク管理と長期的なビジネス展開の両方につながります。

まとめ|インド医療機器市場では「顧客に近い体制」が成長の鍵

日本企業の強みを、現地で使いやすい価値に変える

インドの医療機器市場は成長が期待され、政府による国内生産支援も続いています。島津製作所の生産・販売体制の強化や、オリンパスの研究開発・修理体制の拡充は、日本企業がインドを販売先だけではなく、事業機能を持つ重要拠点として捉え始めていることを示しています。

日本企業には、高い精度、耐久性、安全性、品質管理といった強みがあります。ただし、その強みをインド市場で成果につなげるには、現地の顧客が導入しやすく、継続して使いやすい形に変える必要があります。

市場調査から製品のローカライズ、販売チャネル、パートナー選定、アフターサービスまでを一体で設計し、小さな検証から始めることが、持続的な成長への近道です。

マーケット・リサーチ社が現地調査から参入戦略まで支援します

マーケット・リサーチ社では、インド市場への進出や事業拡大を検討する医療機器メーカー様に対し、顧客ニーズ調査、競合分析、現地パートナー候補の探索、テストマーケティング、参入戦略の策定を支援しています。

「どの地域・顧客層を優先すべきか分からない」「現地向けに製品をどこまで変更すべきか判断できない」「販売代理店やサービスパートナーを比較したい」といった段階からご相談いただけます。

具体的な進出計画が固まっていない情報収集の段階でも問題ありません。インドでの事業可能性を整理したい企業様は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

西山謝志

西山謝志

有限会社マーケット・リサーチ社 代表/インド市場調査コンサルタント
元エクソン社および伊モンテディソン社にて東南アジア地域統括を歴任後、証券会社での産業アナリスト職を経て、1997年にマーケット・リサーチ社を設立。インド市場に特化した調査・進出支援の第一人者として、20年以上にわたり100社以上の日本企業の現地進出をサポートしてきた実績を持つ。特に、自動車、エネルギー、食品、医療、機械、ITなど幅広い業種において、市場調査・販路構築・提携交渉などの実務支援を行っている。