インド半導体市場レポート|2026年8月・9月のSemicon 2.0と日本企業の参入機会

インド半導体市場の2026年8月・9月動向を説明するフラットベクターイラスト

2026年8月から9月にかけて、インド半導体市場は政策の構想段階から、具体的な制度運用とサプライチェーン構築へ進みました。8月31日にはSemicon 2.0の6本柱に関する通知が発行され、9月17日から19日にはニューデリーでSEMICON India 2026が開催されました。

同時期には、半導体材料、先端パッケージング、精密部品、専門物流、装置技術をめぐる企業間協業も相次いでいます。日本企業にとって重要なのは、インドの投資規模だけを見ることではありません。自社の製品・技術が、どの地域のどの工程で必要とされ、顧客認定や現地サポートの条件を満たせるかを具体的に確認することです。

本レポートでは、インド半導体市場の2026年8月・9月の主要動向を整理し、日本の装置・材料・精密技術関連企業が事業機会を見極めるための実務ポイントを解説します。

インド半導体市場の2026年8月・9月の要点

今回の重要な変化は、政府支援、製造プロジェクト、材料・装置・物流の協業が、同じ時期に具体化したことです。ただし、政策通知や投資発表が、そのまま個別企業への発注を保証するわけではありません。事業機会を評価する際は、制度、顧客、工程、認定、現地支援を分けて確認する必要があります。

Semicon 2.0の6本柱が通知

インド政府は2026年8月31日、Semicon 2.0の6本柱に関する通知を発行しました。6本柱は、設計、装置・材料、新規ファブ、ATMP・OSAT、研究開発、人材育成です。支援対象となる案件は原則として最大6年間、当初の申請受付期間は3年間とされ、India Semiconductor Mission(ISM)が申請、技術・財務審査、実施監督を担います。

これは、半導体製造の中核設備だけでなく、周辺材料、部品、研究開発、人材まで支援対象を広げる方向性を示しています。日本企業は、自社製品がどの制度区分に関係するのかを確認すると同時に、補助対象になり得ることと、実際の顧客需要が存在することを分けて判断しなければなりません。

出典:インド政府 Press Information Bureau「Union Minister Ashwini Vaishnaw addressed media on Semicon 2.0」(2026年8月31日、2026年10月21日確認)

SEMICON India 2026に600社超が出展

2026年9月17日から19日まで、ニューデリーのYashobhoomiでSEMICON India 2026が開催されました。インド政府の発表では、出展企業は600社超、参加国は52カ国に達し、日本を含む6つの国別パビリオンが設けられました。会期中には56件のMoU、発表、戦略的取り組みが示されています。

イベントの規模は、インド半導体市場への関心の高さを表します。一方、展示会での面談やMoUを商談成果に変えるには、技術・調達責任者を特定し、サンプル評価、品質基準、供給条件、次回の判断期限を具体化する必要があります。

出典:インド政府 Press Information Bureau「SEMICON India 2026 Concludes Successfully」(2026年9月19日、2026年10月21日確認)

政策からサプライヤー参画へ焦点が移行

Semicon 2.0とSEMICON India 2026を合わせて見ると、今後の焦点は、承認された大型案件をどのようなサプライヤー網で稼働させるかに移っています。ファブやOSAT施設には、薬液、高純度材料、リードフレーム、精密部品、計測、保管、輸送、校正、保守など、多数の周辺機能が必要です。

日本企業にとっては、完成した半導体製造装置だけが参入対象ではありません。既存の製造技術を、インドの顧客認定、納入体制、現地支援要件に合わせて提供できるかが、ビジネス展開の可能性を左右します。

日本企業とTata Electronicsの協業が具体化

2026年9月には、Tata ElectronicsのDholeraファブとJagiroadの半導体パッケージング施設を中心に、日本企業との協業が相次いで発表されました。材料、部品、物流など複数分野の連携が同時に進んでいる点が特徴です。

富士フイルムはDholeraで材料工場を計画

富士フイルムとTata Electronicsは9月17日、インドの半導体材料エコシステム構築に向けたMoUを発表しました。富士フイルムはDholera Special Investment Regionに半導体材料工場を設けるため、約80億ルピーを段階的に投資する計画です。協業には、重要原材料の現地化やインドの化学メーカーに対する技術・品質面の支援も含まれます。

この動きは、材料を輸入して供給するだけでなく、顧客の近くで品質、在庫、供給継続性を管理する必要性を示しています。材料メーカーや関連設備企業には、現地生産そのものに加えて、分析、品質保証、薬液供給設備、安全管理などの周辺需要も想定されます。

出典:Tata Electronics「Tata Electronics and Fujifilm Announce Strategic Partnership」(2026年9月17日、2026年10月21日確認)

住友化学は材料供給と現地生産を検討

住友化学とTata Electronicsは9月18日、Dholeraファブ向けのフォトレジスト、機能性薬液、高純度薬液などの供給を検討するMoUを締結しました。さらに、インド国内で半導体材料や高純度薬液を製造する可能性も検討対象に含まれています。

半導体材料では、製品性能だけでなく、純度、ロット間の再現性、トレーサビリティ、保管・輸送条件、異常時の技術対応が評価されます。市場調査の段階から、顧客仕様、認定期間、サンプル量産の条件、品質保証の責任分担を確認する必要があります。

出典:Tata Electronics「Tata Electronics and Sumitomo Chemical Sign MoU」(2026年9月18日、2026年10月21日確認)

エノモト、双日・NRSは実装部材と物流で協業

エノモトとTata Electronicsは、アッサム州Jagiroadの半導体パッケージング施設を支援するMoUを締結しました。リードフレームの現地化、技術移転、エンジニアリング協力などを検討します。

また、双日、NRS、Tata Electronicsは、Dholeraファブ向けの重要材料について、供給・保管の枠組みを検討することで合意しました。半導体材料には特殊な取扱いを要するものがあるため、倉庫、輸送、許認可、安全管理もサプライチェーンの重要な一部です。

出典:Tata Electronics「Tata Electronics and Enomoto Sign Memorandum of Understanding」、Tata Electronics「Tata Electronics, Sojitz Corporation and NRS CORPORATION Announce Partnership」(2026年9月18日、2026年10月21日確認)

装置・精密部品分野への大型投資

材料・物流と並び、装置技術や精密部品に関する大型投資も発表されました。これらの計画は、インド国内で装置を運用・保守する人材や部品供給網の需要が拡大する可能性を示します。

Applied Materialsは10年間で50億米ドルを計画

SEMICON India 2026では、Applied Materialsが「India Vision 2035」として、今後10年間で50億米ドルを投資し、インドを拠点とするサプライチェーン能力を2035年までに10倍へ拡大する計画を発表しました。

装置メーカーの事業拡大は、精密加工部品、表面処理、洗浄、計測、治具、サービス部材などの需要につながる可能性があります。ただし、グローバル仕様を満たすには、品質管理、変更管理、納期、監査対応を含む継続的な供給能力が必要です。

Lam Researchはシリコン部品製造を発表

Lam Researchは、インドで初となるシリコン部品製造・垂直インゴット加工工場に約1万クロール・ルピーを投じる計画を発表しました。金額は日本語換算で約1,000億ルピーに相当します。

この計画では、インド国内の高精度部品サプライヤー育成も重要になります。日本の精密加工、計測、洗浄、品質管理関連企業は、半導体メーカーだけでなく、インドで供給網を構築する装置OEMも顧客候補として評価することが有効です。

出典:インド政府 Press Information Bureau「Prime Minister Shri Narendra Modi Inaugurates SEMICON India 2026」(2026年9月17日、2026年10月21日確認)

投資額ではなく認定への参入可能性を見る

大型投資の発表は市場の方向性を示しますが、自社の売上機会を直接示すものではありません。サプライヤー候補として評価されるには、対象工程、部品仕様、品質認証、年間需要、価格条件、現地での技術支援を確認する必要があります。

競合分析では、既存の認定サプライヤー、現地調達比率、代替可能性、顧客が抱える品質・納期上の課題を調べます。そのうえで、サンプル供給、共同評価、PoCなど、顧客が小さく検証できる入口を設計することが重要です。

半導体クラスター別に見る参入機会

インド半導体市場は一つの地域に集中しているわけではありません。ファブ、実装、設計、装置技術の拠点が分かれているため、自社製品と接点のあるクラスターを優先する必要があります。

Dholeraはファブ材料・設備・物流の接点

グジャラート州Dholeraでは、Tata Electronicsが300mmファブを建設しています。材料工場、薬液供給、高純度化学品、専門物流、ファブインフラなど、前工程を支える企業との協業が集中しています。

Dholeraを対象とする企業は、ファブ運営企業だけでなく、EPC企業、装置OEM、材料メーカー、倉庫・物流企業まで顧客候補を広げる必要があります。購買担当者と技術承認者が異なる場合も多いため、意思決定構造の把握が欠かせません。

Jagiroadは実装・部材・品質管理の接点

アッサム州Jagiroadでは、半導体の組立・試験を担うOSAT・パッケージング施設の整備が進んでいます。先端実装、リードフレーム、検査、搬送、品質管理、工程自動化などが主な関連分野です。

実装工程では、量産立ち上げの速度と歩留まりが重要です。日本企業は、単体製品の仕様だけでなく、立ち上げ支援、工程条件の最適化、異常解析、交換部品の供給方法まで含めて提案する必要があります。

Bengaluruは装置・技術開発の接点

カルナータカ州Bengaluruは、半導体設計、研究開発、装置技術、人材の集積地です。装置OEMや技術開発部門との接点をつくりやすく、部品供給だけでなく、共同開発、評価、エンジニアリング支援の候補地になります。

同じインド市場でも、Dholera、Jagiroad、Bengaluruでは顧客課題が異なります。全国一律の営業資料ではなく、対象工程と地域に合わせて価値提案をローカライズすることが必要です。

日本企業が参入前に確認すべき5項目

インド半導体市場への海外進出では、投資計画に反応して現地法人や在庫を先に増やすのではなく、顧客認定と需要検証を段階的に進めることが重要です。

1. 自社技術が解決する工程課題

まず、自社製品が純度、再現性、稼働率、歩留まり、トレーサビリティ、納期など、顧客のどの課題を解決するのかを明確にします。「日本製で高品質」という説明だけでなく、対象工程で改善できる指標を示します。

2. 顧客認定の条件と期間

半導体分野では、サンプル評価から量産認定まで時間を要します。必要な試験、提出データ、監査、変更管理、量産移行の判断者を確認し、営業期間と投資回収を現実的に見積もります。

3. 現地供給・サービス体制

在庫、フィールド技術支援、校正、修理、復旧支援をどこから提供するかを決めます。現地パートナーを活用する場合は、販売チャネルだけでなく、技術者の能力、対応地域、部品管理、顧客情報の共有方法まで評価します。

4. パートナー候補の役割分担

代理店、装置OEM、EPC企業、材料企業、物流会社など、候補ごとに期待する役割を明確にします。パートナー選定では、紹介可能な企業数だけでなく、対象工程への理解、技術対応力、意思決定者への接点、案件管理の透明性を確認します。

5. 小規模検証から始める参入戦略

市場調査で10〜20社程度の候補を抽出し、技術適合性、認定への参入可能性、案件時期で優先順位を付けます。重点企業への現地調査、サンプル評価、テストマーケティングを通じて現地ニーズを確認し、結果に応じて人員・在庫・拠点への投資を段階化します。

2026年10月〜12月に注視すべき動き

今後は、発表された政策や協業が、申請、建設、装置据付、顧客認定、商業出荷へどの程度進むかを継続的に確認する必要があります。

制度ごとの申請・採択条件

Semicon 2.0については、各制度区分の申請要件、対象費用、補助率、審査、採択、支給条件を確認します。補助制度への適合だけでなく、顧客の事業計画と自社の供給条件が一致するかを見極めます。

建設・装置据付・認定の進捗

プロジェクトごとに、建設、ユーティリティ整備、装置搬入、試運転、材料認定、量産開始の段階を分けて追跡します。報道上の「生産開始」が、試作、限定ライン、量産のどの段階を指すかも確認が必要です。

供給網の現地化とサプライヤー登録

材料工場、物流施設、部品仕様、現地在庫、サプライヤー登録の募集などを確認します。展示会やMoUで得た接点は、次回面談、仕様確認、サンプル提出など、期限付きの行動に変えることが重要です。

本レポートについて

調査範囲と注意点

本レポートは、2026年8月1日から9月30日までのインド半導体産業に関する主要動向を、インド政府および企業の公表情報をもとに整理したものです。制度、投資計画、MoU、施設整備は、それぞれ異なる実行段階を示します。

記載した投資額や提携内容は、個別の日本企業に対する発注、顧客認定、投資完了、商業出荷を保証するものではありません。具体的な参入判断には、自社製品、対象工程、顧客、競合、認定条件、現地支援体制を追加調査する必要があります。

まとめ

2026年8月・9月のインド半導体市場では、Semicon 2.0の6本柱が通知され、SEMICON India 2026で600社を超える企業が集まりました。材料、先端実装、精密部品、物流、装置技術をめぐる協業と大型投資も具体化し、サプライヤーが参画できる領域は広がっています。

一方、投資発表やMoUは発注を意味しません。日本企業には、自社技術が適合する工程と地域を絞り、顧客認定、現地供給、技術支援、パートナーの役割を確認したうえで、小規模な評価から参入を進める姿勢が求められます。

マーケット・リサーチ社では、インド半導体市場の市場調査、顧客候補・パートナー候補の抽出、現地ヒアリング、競合分析、参入戦略とリスク管理の設計から、商談・PoCの実行支援まで対応しています。成長性だけで判断せず、自社にとって実行可能な市場機会を見極めることが、持続的な事業展開につながります。

この記事を書いた人

西山謝志

西山謝志

有限会社マーケット・リサーチ社 代表/インド市場調査コンサルタント
元エクソン社および伊モンテディソン社にて東南アジア地域統括を歴任後、証券会社での産業アナリスト職を経て、1997年にマーケット・リサーチ社を設立。インド市場に特化した調査・進出支援の第一人者として、20年以上にわたり100社以上の日本企業の現地進出をサポートしてきた実績を持つ。特に、自動車、エネルギー、食品、医療、機械、ITなど幅広い業種において、市場調査・販路構築・提携交渉などの実務支援を行っている。