西山謝志 2024年、アメリカ政府がインドからの一部輸出品に対し新たに課した最大26％の関税措置は、インド経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。
「トランプ関税」とも呼ばれるこの政策は、世界のサプライチェーンや貿易構造に再び大きな揺さぶりをかけています。特にインドにとっては、輸出の大きな相手国であるアメリカの動きが無視できない要素である一方で、内需の強さや輸出先の多角化、産業構造の変化により、その影響は「限定的」との見方も広がっています。
本記事では、分野別の影響分析とともに、インドが持つ中長期的な耐性と対応策について、わかりやすく解説します。インド市場との取引や進出を検討している企業にとっても、今後の判断材料となる情報をお届けします。
トランプ関税はインドにどの程度の影響を与えるのか？
アメリカがインドからの一部輸出品に対して最大26％の関税を新たに課すという発表は、世界の経済界に大きな波紋を呼びました。
この政策はインド経済にも一定の影響を与えると見られていますが、影響は中程度にとどまるとの見方が強まっています。アナリストの試算によれば、2025〜2026年度のインドGDP成長率は、関税の影響により20〜40ベーシスポイント鈍化する可能性があります。
しかし、インドには内需の強さや多様な輸出構造といった耐性要因が存在しており、大きな混乱には至らないと考えられています。
なぜトランプ関税の影響は限定的なのか？
多様な輸出ポートフォリオ
インドは医薬品、ITサービス、繊維製品、電子機器、機械など幅広い分野で輸出を行っており、関税がすべての製品に一律にかけられたわけではありません。
中でも主要輸出品である医薬品は関税免除の対象となっており、インド経済への打撃を一定程度和らげています。
国内市場の強さ
インドには13億人を超える人口と急成長する中間層が存在し、大規模な内需市場を形成しています。輸出の鈍化があっても、国内向けのシフトによって生産・販売を維持できる余地があることは、インド経済の強みの一つです。
政府も「Make in India」などの政策を通じて、内需主導の経済構造を整備しています。
貿易先の多角化が進行中
インドは米国だけに依存せず、EU、ASEAN、オーストラリア、アフリカ諸国などとの貿易関係を拡大しています。
たとえば以下のような経済協定が進展しています：
- インド・UAE包括経済連携協定（CEPA）
- インド・オーストラリア経済協力・貿易協定（ECTA）
このような貿易の多角化戦略が、米国との摩擦が起きた場合のリスク分散につながっています。
分野別：インド主要産業への関税の影響と対応力
| 分野 | 米国市場への依存度 | 関税の影響 | インドの適応力 |
|---|---|---|---|
| 医薬品 | 高い | 低い | 高い |
| ITサービス | 高い | 中程度 | 高い |
| 宝石・貴金属 | 高い | 高い | 中程度 |
| アパレル | 中程度 | 中程度 | 中程度 |
| 自動車 | 低い | 低い | 高い |
| 農業品 | 低い | 低い | 中程度 |
医薬品
インドの医薬品輸出は年間約90億ドルにのぼりますが、今回の関税から免除されており、大きな打撃は避けられています。
ITサービス
ITサービスそのものには関税はかかりませんが、米国の景気後退により、ITサービスの顧客業界（製造・物流・小売など）の支出が抑制されるリスクがあります。結果として、契約期間の長期化やプロジェクトの遅延が発生する可能性があります。
宝石・貴金属
関税の対象となっており、約90億ドル規模の輸出額に大きな影響が懸念されています。宝石加工などに従事する中小企業にとっては痛手となる可能性があります。
電子機器
年間140億ドル相当の電子機器輸出が関税の影響を受けると見られています。これにより、雇用や収益にマイナスの影響が出る可能性も否定できません。
結論：インドは中長期的には耐性あり
短期的には一部産業が打撃を受けるものの、インド経済全体としては「中程度」の影響にとどまると考えられています。
- 強固な内需市場
- 輸出先の多角化
- 政府の産業支援政策
- 構造改革の進展
これらの要素により、トランプ関税が長期化・拡大したとしても、インドは柔軟に対応する体制を整えつつあります。
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